「死」をタブー視せず、人間の尊厳の根幹として捉え直す試みは、20世紀後半の生命倫理学の胎動とともに始まった。精神科医のエリザベス・キューブラー=ロスは、著書『死ぬ瞬間』の中で、末期患者が辿る「否認・怒り・取引・抑鬱・受容」という5つの心理プロセスを提示した。人間は自らの死と向き合い、対話を重ねることで、穏やかな受容へと至ることができる――彼女の臨床的洞察は、延命一辺倒だった近代医療のあり方に強烈な一石を投じた。
対照的に、過激な実践で世界を揺るがしたのが、米国で「ドクター・デス(死の医師)」と呼ばれた病理医ジャック・ケヴォーキアンだ。彼は自作の自殺装置を用いて100人以上の末期患者の自死を幇助し、社会に凄まじい衝撃と法廷闘争を巻き起こした。彼の急進的な行動は激しい批判を浴びたが、同時に「耐えがたい苦痛の前に、個人は自らの死を選ぶ権利を持つのか」という重い命題を近代社会に突きつける契機となった。
キューブラー=ロスが説いた受容の思想と、ケヴォーキアンが投げかけた問い。これら歴史的な思索の積み重ねが、現在の患者中心のケアや自己決定権の尊重という生命倫理の規範を形作っている。