旅の計画を立てる際、ネット上で散見される「慶雲館 倒産」「経営危機」という言葉に戸惑う方は多いはずです。調査報道の観点からこの噂を検証すると、火のない所に煙は立たないものの、結論として「旅館自体が潰れたり営業を停止した事実はない」ことが明確になります。
発端となったのは、2017年後半から2018年にかけて行われた事業再生スキームです。慶雲館は2005年、開湯1300年を記念して敷地内での大規模な深層掘削事業を敢行しました。この掘削によって毎分1,600リットルを超える巨大な新源泉を掘り当てる歴史的快挙を成し遂げたものの、多額の設備投資とバブル崩壊後の観光需要の変化、さらには東日本大震災後のインバウンド一時激減などが重なり、旧運営会社は数十億円規模の有利子負債を抱えることとなりました。
老舗の看板と雇用を守るため、金融機関や中小企業再生支援協議会の主導によって選択されたのが「新旧分離(会社分割・事業譲渡)」という法的手続きです。宿泊事業や従業員、源泉の権利といったコア資産は、新設された「株式会社慶雲館」に完全に引き継がれました。一方で、過去の過大な借入金を残した旧会社(株式会社西山温泉慶雲館)が特別清算の手続きに入ったため、官報や信用調査会社の倒産速報に「特別清算」として社名が掲載されたのです。
この法的手続きが一般向けニュースやネット掲示板でセンセーショナルに切り取られ、「世界最古の宿が倒産」という誤解を含んだ噂として拡散しました。事業譲渡を経て財務基盤を抜本的に健全化させた新体制のもと、宿は何ら滞りなく営業を続け、2026年現在も高水準のホスピタリティを維持しています。