『憧れのハワイ航路』の歌詞は、「晴れた空 そよぐ風 港出船のドラの音さやかに」という鮮明な情景描写から幕を開けます。この一節だけで、灰色にくすんでいた聴き手の脳裏に、抜けるような青空と巨大客船の白い船体が鮮烈に立ち上がります。石本美由起が紡いだ言葉は、単なる地名の羅列ではなく、汽笛の響き、白いテープが舞う別れの光景、そして「憧れのハワイ航路」という決定的なフレーズによって、聴く者すべてを束の間の航海へと誘う魔法を持っていました。
レコードのメガヒットを受け、1950年(昭和25年)には新東宝の手によって同名タイトルで映画化が実現します。メガホンを取ったのは職人監督・斎藤寅次郎です。映画版のキャストは、まさに戦後芸能史の転換点を象徴する顔ぶれとなりました。主演はもちろん歌手本人である岡晴夫が務め、コミカルかつ温かみのある演技でファンを魅了しました。
特筆すべきは、当時まだ若干12歳前後だった美空ひばりの出演です。すでに天才少女歌手として頭角を現しつつあった美空ひばりは、本作でもその驚異的な歌唱力と存在感を発揮し、映画は大入り満員を記録しました。映画館の銀幕を通して、人々は動くスターの姿とハワイのイメージを視覚的に体験し、名曲の地位は不動のものとなったのです。