音楽面における最大の注目点は、伝説的監督であり音楽家としても知られるトニー・ガトリフの世界観が色濃く反映されている点にある。放浪の民の文化や生き様を熱量高く描写し続けてきたガトリフの美的感覚は、今作のあらゆるシーンに息づいている。
劇中を彩るのは、哀愁漂う弦の旋律と力強いリズムが交錯するジプシー・ジャズだ。生演奏のライブ感をそのままフィルムに焼き付ける手法が採られており、路地裏のカフェの煙った空気感や、人々の吐息までもが音楽と同調する。セリフを削ぎ落とし、音楽と表情で物語を紡ぐ表現手法は、観客の感情を直接揺さぶるに違いない。サウンドトラックのリリースだけでも音楽ファンの間で争奪戦になることは必至だ。