歯科医師が刑事事件で身柄を拘束されるケースにおいて、適用される罪名は医療現場の特殊性を反映したものが目立ちます。警察当局の発表資料や報道各社の取材データを整理すると、逮捕に至る決定的な理由は大きく3つの類型に分類されます。
第1の類型は、経済犯罪である診療報酬不正請求です。実際には行っていない架空の処置をレセプト(診療報酬明細書)に記載したり、保険適用外の自由診療を行っていながら保険診療として二重請求したりする悪質な手口が該当します。被害額が数千万円規模に膨らむと、組織的な詐欺罪として警察の強制捜査に発展します。
第2の類型は、診療室内という密室性を悪用した不同意わいせつや準強制わいせつなどの性犯罪です。局所麻酔や笑気吸入鎮静法によって患者の意識が朦朧としている状態に乗じた犯行は、患者の心身に深い傷を残す卑劣な行為として厳しく追及されます。
第3の類型は、医療資格法規の違反です。歯科衛生士や無資格の歯科助手に抜歯や麻酔などの絶対的歯科医行為を行わせる歯科医師法違反や、向精神薬の不正持ち出し・自己使用に伴う麻薬及び向精神薬取締法違反などが挙げられます。
捜査当局が実名報道や病院名の公開に踏み切る基準は、容疑の重大性、組織性、および余罪の有無です。とりわけ地域住民への影響が大きい医療犯罪では、警視庁や各道府県警の記者クラブ発表を通じて、容疑者の経歴や医院名が広く報じられる傾向にあります。