物理的な道具の違いは、プレーヤーの身体操作に根本的な分岐点をもたらします。テニス指導者やスポーツ整形外科医が最も警鐘を鳴らすのが、打ち方とスイングフォームの違い、そしてグリップの握り方の違いです。
軟式テニスでは、ラケットの裏表を同じ面で打つ「ウエスタングリップ」が伝統的に主流です。地面と水平にラケットを置き、上から真上に向けて握る極端に厚いグリップによって、身体のかなり前方の打点でボールを捉えます。インパクトの瞬間に手首のスナップを利かせ、ゴム球をラケット面で強烈に潰しながら振り抜くスイングが特徴です。軽量なボールだからこそ、手首の返し(掌屈・背屈)を高速で行っても関節にかかる負担が小さく、鋭いドライブ回転やカットサーブを繰り出すことができます。
ところが、この軟式の打ち方を硬式テニスでそのまま実践すると、深刻な手首や肘の怪我リスクに直面します。硬式球は約60gという重さに加え、時速100km以上の猛スピードで飛来します。インパクトの衝撃力は軟式の比ではありません。硬式テニスにおいて手首のスナップでボールを叩こうとすると、ボールの慣性力に手首が押し負け、橈骨(とうこつ)や尺骨周囲の腱鞘に過度のストレスが集中します。
その結果、スポーツ整形外科の現場では「テニス肘(上腕骨外側上顆炎・内側上顆炎)」や手首の「TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷」を発症する選手が後を絶ちません。日本臨床スポーツ医学会などの報告でも、競技転向者の受傷理由の上位に「打点と手首の使い方のエラー」が挙げられています。
硬式テニスではセミウエスタンやイースタングリップが中心となり、インパクト時は手首の角度を強固に固定(コック)したまま、下半身から骨盤、体幹、肩へと力を伝える「キネティックチェーン(運動連鎖)」によってボールを押し出さなければなりません。フォアハンドとバックハンドでグリップを持ち替え、面を使い分ける技術も必須です。「手先で打つ軟式」から「身体の回転軸で運ぶ硬式」への意識変革ができない限り、怪我の回避は困難を極めます。