探査船「ちきゅう」の真価は、過酷な深海底において地層の圧力を完全に制御しながら数千メートルを掘り進む超高精度の工学技術にあります。その心臓部といえるのが、科学探査船としては世界で初めて本格導入されたライザー掘削システムです。
従来の科学掘削船が採用していた「ノンライザー掘削」では、掘削パイプが海中にむき出しの状態で作業を行うため、地層から吹き出す高圧のガスや地下水を制御できず、崩壊しやすい軟弱な地層を深く掘り進むことが困難でした。これに対し「ちきゅう」のライザー掘削システムは、船体と海底の噴出防止装置(BOP)を「アウターケーシング(外管=ライザーパイプ)」で連結します。その内部に比重や粘度を精密に調整した「泥水(掘削流体)」を循環させることで、孔壁の崩壊を防ぎ、地層圧力を抑え込みながら、安全かつ確実に超深部への到達を可能にしています。
船体中央にそびえ立つデリック(掘削やぐら)の高さは海面から約130メートル(ビル約30階分相当)に達し、レインボーブリッジなどの主要な橋の下をくぐることができないほどのスケールを誇ります。この巨大な構造体が、荒れ狂う外洋の上で1本の細いドリルパイプを海底のピンポイントに降ろし続ける精密制御は、日本の造船技術と海洋工学の極致といえます。