「麦の季」は、俳句の歳時記において「初夏(夏)」の季語に分類されます。同意語には「麦秋(ばくしゅう/むぎあき)」「麦の秋(むぎのあき)」があり、いずれも麦の刈り取りが行われる5月下旬から6月中旬頃の季節を表します。
カレンダー上の「秋(9月〜11月)」と混同されやすい最大の理由は、「秋」という漢字が持つ二重の意味にあります。日本語の古語において「あき」は、農作物が実り、食料が満ち足りる状態を表す「飽き(あき)」「充ち(みち)」と同根であるとされています。つまり、米の収穫期である秋だけを指すのではなく、それぞれの作物が成熟を迎える時期そのものを「秋」と呼び習わしていました。
麦は前年の秋に種をまき、冬の寒さに耐えて春に急成長し、初夏に収穫期を迎えます。米よりも数か月早く黄金色に実るため、初夏こそが麦にとっての「実りの秋」となります。これが、立夏を過ぎて気温が上がり始める5月〜6月に「麦の季」「麦秋」と呼ぶ言語的・生態学的な根拠です。