当時、フィギュアスケート界は4回転ジャンプの跳躍数と芸術性の両立という過渡期に直面していた。難度の高いジャンプを跳べば演技の滑らかさが失われ、表現を重視すれば高得点を狙えないというジレンマだ。その壁をあっけなく打ち破ったのが羽生の存在だった。
ブライアン・オーサーコーチのもと、カナダ・トロントで磨き上げたスケーティング技術は、氷を捉えるエッジワークの深さにおいて群を抜いていた。軸のブレない高速スピン、柔軟性を活かしたレイバックイナバウアー、そして曲の感情と完全に同調する身体表現。単に難度の高い技を並べるのではなく、プログラム全体を一つの物語として紡ぎ出す彼のスタイルは、審査員たちに「異次元」と評された。