楽曲の誕生過程にも、ポップミュージック史に残る興味深いドラマが存在します。ショーンメンデス If I Can't Have You 制作秘話として知られるのが、当初はこの楽曲が女性アーティストであるデュア・リパへの提供曲として構想されていたという事実です。
長年の制作パートナーであるテディ・ガイガー(Teddy Geiger)、スコット・ハリス(Scott Harris)らとともにスタジオに入ったショーンは、当初キャッチーなダンス・ポップを他者に提供するつもりでメロディを紡ぎました。しかし、ピアノの前でデモを歌い進め、コーラスの感情が形を成していくにつれ、ショーンは自らの内面で激しい葛藤を覚えたと当時の海外音楽メディアの取材で振り返っています。「スタジオで自分で歌ってみた瞬間、『いや、これは誰にも渡せない。自分で歌わなければ嘘になる』と直感した」という証言が残されています。
また、楽曲の魅力を倍増させたのが、映像ディレクターのバーディア・ゼイナリ(Bardia Zeinali)が手掛けたモノクロの映像美です。ショーンメンデス If I Can't Have You MV解説として特筆すべきは、華美な色彩を排した「静寂と喧騒の対比」です。
スタジオのマットレスに横たわる無防備なショーンの姿から始まり、刻々とリズムを刻むメトロノーム、ドラムやピアノを激しく演奏するフィジカルな躍動感へと展開します。色彩を完全に排除したモノクロ映像を採用した意図は、「どれほど周囲が華やかであろうと、求めている相手が不在である世界は色を失っている」という心象風景の視覚化に他なりません。肉体を露わにしながらベッドで苦悩する描写は、ロックスターとしての虚飾を剥ぎ取った生身の青年の脆さを克明に伝えています。