「了解しましたは失礼」という言説は、いつどのようにして社会の共通認識となったのでしょうか。言語学者や辞書編纂者の指摘によると、昭和期や平成初期の文献において「了解」が目上に使えないという明確な禁則規定は存在していませんでした。自衛隊や警察、無線通信の現場では、階級を問わず簡潔かつ確実に伝達する用語として「了解」が重宝されてきた経緯もあります。
潮目が変わったのは、2000年代後半から2010年代にかけてのビジネスマナー本の乱立とネット掲示板・SNSの普及です。研修会社やマナー講師が「差がつく敬語指導」の一環として、「了解は同僚以下に使う言葉」「上司には承知を使うべき」と強調し始めました。このルールが「知っておくべき社会人の常識」としてウェブメディアで急速に拡散され、いわゆる「了解道徳(作られたマナー)」として定着した側面は否定できません。
しかし、ネット上の議論で「マナー講師のこじつけだ」と反発したところで、現実のビジネス現場で損をするのは使い手本人です。大手企業や伝統的な産業を中心に、管理職層の約7割以上が「部下からの『了解しました』に違和感を覚える」とする各種意識調査の結果も存在します。言葉の歴史的妥当性と、現場での感情的受容は別個の問題として捉える必要があります。