マルクルの愛らしさと哀愁に満ちたキャラクター性を完璧に成立させたのが、当時小学5年生(11歳)だった神木隆之介さんの名演です。
すでに『千と千尋の神隠し』の坊役(アフレコ当時は約7〜8歳)でスタジオジブリ作品の洗礼を受けていた神木さんですが、本作ではより高度な感情表現が求められました。当時の制作特番や関係者の回顧録によると、宮崎駿監督は神木さんに対し、声優的な作り声ではなく「普段通りの、飾らない少年の息遣い」を強く求めたとされています。
特に特筆すべきは、「待たれよ」に代表される老人変装時の低音ボイスと、素に戻った瞬間の無邪気な声の落差です。大人の声優が演じ分けるのではなく、変声期を迎える直前の11歳の少年が、喉を鳴らして懸命に低い声を出そうとする「不完全な背伸び」の質感調教こそ、宮崎監督が求めたリアリズムでした。
スタジオでの収録時、宮崎監督はブースの神木さんの演技を見て顔をほころばせ、「素晴らしい、まさにマルクルそのものだ」と絶賛したと伝えられています。少年の純粋さと、どこか大人びた寂しさを併せ持つ神木さんの唯一無二の声質が吹き込まれたことで、マルクルは20年以上愛され続ける名キャラクターとしての命を得ました。