1996年4月クールに放送された『ロングバケーション』は、単なる恋愛ドラマの枠組みを遥かに超え、平成のポップカルチャーを決定づける社会現象となりました。その原動力となったのが、脚本家・北川悦吏子が紡ぎ出した軽妙でリアルな会話劇と、山口智子が演じたヒロイン「葉山南」の鮮烈なキャラクター造形です。
物語は、結婚式当日に花婿に逃げられた南が、白無垢姿に角隠しをつけたまま街中を疾走し、逃げた婚約者のルームメイトであったピアニスト・瀬名秀俊の部屋へ乗り込むという衝撃的なオープニングで幕を開けます。この時、山口智子の実年齢は31歳。当時のテレビドラマにおいて、30代を迎えた女性の挫折や焦燥感、そしてそこからの再生をここまでカラッと明るく、かつ泥臭く表現した作品は他に類を見ませんでした。
劇中で見せた山口智子の衣装は、オーバーサイズの白Tシャツにデニム、無造作に羽織ったチェックシャツやショートパンツといった、極めて自然体なカジュアルスタイルでした。肩肘を張らないメンズライクな着こなしや、鎖骨あたりでラフに遊ばせるレイヤーの入った髪型(無造作ボブ・セミロング)は、当時の働く女性たちの間で爆発的な流行を巻き起こしました。「等身大の自分でいい」という彼女の佇まいは、バブル期の過剰な装飾から抜け出そうとしていた女性たちにとっての決定的なバイブルとなったのです。