正午前後の渋谷。明治通り沿いの雑居ビル地下へと続く階段には、スーツケースを携えた訪日観光客や流行に敏感な若者たちが幾重にも重なって並んでいます。店頭の案内板を確認しながら並ぶ人々の目的はただ一つ、薄衣をまとった鮮やかなロゼ色の牛かつです。報道関係者やフードツーリズム専門家の間でも、なぜここまで単一業態が世界的な求心力を保ち続けているのかが長らく分析の対象となってきました。
取材を通じて見えてきた人気の本質は、単なる「味の良さ」にとどまらない徹底的な体験型エンターテインメント性(コト消費)にあります。牛かつもと村の最大の特徴は、注文後わずか60秒ほどでサッと揚げられたミディアムレアの牛かつが提供され、それを卓上の専用石盤(固形燃料で熱したミニ鉄板)で客自身が好みの焼き加減に仕上げる点です。ジュウという小気味よい音、立ち上る香気、そして自分好みの火入れで食べる一口。この一連の五感刺激が、TikTokやInstagramのリール動画において極めて「映える」コンテンツとして世界規模のアルゴリズムに乗ったことが発端でした。
実際に並んでいる韓国からの旅行客に話を聞くと、「ソウルでも日本の牛かつは有名だが、もと村の石盤で焼くスタイルこそが本物の体験として知られている。1時間以上待ってでも旅のハイライトとして外せなかった」と語ってくれました。国内のリピーター層に加えて、インバウンドの「訪日必須スポット」として定着した構造こそが、連日の大行列を生み出している真相です。