本作のクライマックスを飾るのが、二人が死地へと歩みを進める「道行の段(みちゆきのだん)」です。義太夫節のリズムに乗せて語られる名文は、日本文学史上でも最高峰の情景描写と称されています。
「この世のなごり、夜もなごり。死にに行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜、一足づつに消えて行く、夢の夢こそあはれなれ」
【現代語訳】
「この世への名残を惜しむように、夜も明けようとしている。これから死にゆく二人の身を例えるならば、墓場へと続く道に降りた儚い霜のようだ。一歩踏み出すごとに消え失せていく、まさに夢の中の夢のような我が身の儚さこそ、哀れで切ないものだ」
鐘の音が一つ鳴るごとに死へ近づいていく情景が、大坂の街の地名を巧みに織り込みながら綴られます。現世の絶望を嘆くだけでなく、「未来(来世)で必ず夫婦になろう」と誓い合う二人の崇高な決意が、詩情豊かな詞章によって鮮烈に描き出されます。