ネットや旅行ガイドの片隅で長年囁かれ続けているのが、ベトナムの古道具店に関する噂の真相である。「ハノイやフエの古道具屋には、インドシナ戦争時代のジッポーライターやフランス植民地時代の銀食器、バッチャン焼のアンティークが二束三文で眠っている」という言説だ。
現地アンティーク市場のベテランバイヤーおよび古美術商への取材から判明した真相は、「市場に出回っている95%以上が巧妙に作られた精巧なレプリカ(現代のフェイク品)」という極めて冷酷な現実である。
特に米軍放出品を謳うジッポーやミリタリーバッジ、ヘルメットなどは、中国やベトナム国内の専門工場で薬品を使って錆びさせ、土に埋めて風合いを出したフェイク品が大量に流通している。古い陶磁器に見える小皿も、現代のバッチャン村で作られた安価な製品に燻煙加工を施したものが大半だ。
もちろん、残りの数パーセントには本物の歴史的遺品や、旧家から放出された良質な調度品が実在する。しかし、そうした真の骨董品は現地コレクターの間で店先に並ぶ前に取引されており、観光客がふらりと立ち寄る店頭に格安で放置されている可能性は極めて低い。「歴史的価値」を期待して大金を支払うのではなく、「デザインが気に入ったレトロ調のインテリア雑貨」として数百円から数千円の範囲で楽しむ姿勢こそが、後悔しないための防衛策である。