御岩神社の名を全国区に押し上げた最大の契機は、宇宙飛行士にまつわる2つの具体的な証言譚です。ひとつは1971年に月面着陸を果たしたアポロ14号の宇宙飛行士、エドガー・ミッチェル氏にまつわる話。もうひとつは、1994年と1998年にスペースシャトルで宇宙へ赴いた向井千秋氏にまつわるエピソードです。
噂の発端として語られる典型的な筋書きはこうです。エドガー・ミッチェル氏が宇宙から地球を見つめていた際、日本列島の一角から強烈な光が宇宙空間へ向けて柱のように伸びているのを発見。地球帰還後にその地点の座標を割り出すと、それが茨城県日立市入四間町の御岩神社であったというものです。さらに後年、日本人初の女性宇宙飛行士である向井千秋氏も、スペースシャトルの船窓から日本を見た際に同じ場所が光っているのを目撃し、場所を調べたところ御岩山であったと語った、という尾ひれが付きました。
この劇的なストーリーの客観的証拠を追うべく、NASA(米航空宇宙局)の公式飛行記録、JAXA(宇宙航空研究開発機構)のアーカイブ、ならびに両氏の公式な自著や記者会見記録を精査しました。しかし、ミッチェル氏が公的な場や自伝『The Way of the Explorer』等で「日本の特定の神社から光が放たれていた」と語った一次記録は一切存在しません。ミッチェル氏が宇宙飛行中に経験したのは、宇宙と自己が不可分に融合する「サマーディ(宇宙意識・オーバージュー効果)」と呼ばれる神秘的な変容体験であり、彼は帰還後に純粋知性科学研究所(IONS)を設立して意識研究に没頭しました。この崇高な神秘体験が、日本のスピリチュアル界隈へ輸入される過程で、古代霊場である御岩神社の伝承と混交したというのが真相です。
また、向井千秋氏に関しても同様の検証が行われています。向井氏自身が公式インタビュー等で「宇宙から御岩神社の光を見た」と発言した事実はなく、過去のメディア取材に対して関係者が事実無根の噂として否定的な見解を示した経緯があります。宇宙から肉眼で確認できる光は、夜間の巨大都市群の灯り、雷雲、オーロラ、大気光などに限られ、局所的なパワースポットから単一の光芒が宇宙へ突き抜ける物理的現象は観測され得ません。つまり、「宇宙飛行士が見た光の柱」という物語は、人々の聖地に対する崇敬の念が先端科学の象徴である宇宙飛行士の権威を借りて結晶化した現代の民俗学的神話であると結論づけられます。