パックを開けた瞬間に立ち上る強烈な臭いには、明確な科学的理由が存在します。食品流通の現場データや調理科学の研究によると、牛肉の臭気は単一の要素ではなく、主に「肉汁(ドリップ)の酸化」「飼料由来の成分」「包装形態による一時的なガス滞留」という3つの要因が複合して発生しています。
なかでも最大の原因は、パック底部に溜まった赤い液体「ドリップ」です。肉の筋繊維が壊れて流出したドリップには、鉄分を豊富に含むヘモグロビンやミオグロビン、タンパク質が凝縮されています。これらが空気中の酸素や常温環境に触れることで急速に酸化が進み、金属臭や血液特有の生臭さに変化します。
また、昨今スーパーで主流となっている高気密性スキンパックや真空包装では、パック内に還元状態のガスが滞留しやすくなります。開封直後に硫黄に似た特異な匂いを感じることがありますが、これは肉が呼吸を制限されていたことによる一時的な現象です。空気に触れさせて10〜15分ほど放置し、肉色が鮮やかな赤色に戻ると同時に匂いが消える場合は、品質にまったく問題ありません。
一方、オーストラリア産などのオージービーフに代表される輸入牧草牛(グラスフェッドビーフ)特有の青臭さは、牛が主食として食べた牧草中の葉緑素(クロロフィル)が体内で分解されて生じる「フィトール」という化合物が脂肪組織に蓄積されることが直接的な原因です。穀物飼育(グレインフェッド)の国産牛に慣れた日本人にとって、この特有の青草臭や野性味は「獣臭さ」として感知されやすい傾向があります。