結婚式の定番クラシックを語る上で、ワーグナーと並び称されるのがフェリックス・メンデルスゾーンの『結婚行進曲』です。一般に「ワーグナーは新婦入場」「メンデルスゾーンは新郎新婦退場」として使い分けられますが、音楽的構造と誕生の背景には決定的な違いが存在します。
メンデルスゾーンの楽曲は、シェイクスピアの戯曲に基づいた劇付随音楽『夏の夜の夢(真夏の夜の夢)』作品61の第9曲として1842年に作曲されました。妖精たちの悪戯によるドタバタ劇の末、複数のカップルが目出度く結ばれる祝祭のクライマックスに鳴り響くファンファーレです。一方、ワーグナーの楽曲は、合唱を主体とした静けさと神聖さを帯びた歩調に設計されています。
この2曲を組み合わせる挙式スタイルを決定づけた歴史的事象が、1858年1月25日にロンドンのセント・ジェームズ宮殿で行われた英国王室のロイヤルウエディングでした。ヴィクトリア女王の長女であるヴィクトリア王女が、プロイセン王国のフリードリヒ・ヴィルヘルム王子(後のドイツ皇帝フリードリヒ3世)と成婚した際、音楽に造詣が深かった王女自らが「入場にワーグナー、退場にメンデルスゾーン」を指定したのです。
大英帝国の威光とともにこの演出は当時の上流階級から庶民へと急速に伝播し、およそ170年近くにわたり欧米から日本に至るまで結婚式のスタンダードとして定着しました。