アウトドア用品として広く普及しているポイズンリムーバーですが、ムカデ咬傷に対する効果については臨床的な限界を理解しておく必要があります。ムカデの牙(曳航肢が変化した毒肢)は極めて鋭利かつ鉤爪状に曲がっており、皮下組織に対して深く斜角を描いて穿刺されます。そのため、皮膚表面を陰圧吸引するだけのポイズンリムーバー毒抜きの効果は限定的であり、注入された毒液全体を吸い出すことは物理的に困難です。
無理に吸引器を強く押し当てて何度も陰圧をかけると、周囲の毛細血管を破綻させて内出血を招き、組織の炎症反応を加速させてしまう症例が報告されています。「ポイズンリムーバーがあるから温熱洗浄を省く」というのは本末転倒であり、あくまで手元にある場合の補助的な選択肢に留めるべきです。
さらに危険なのが、昭和の時代から語り継がれる民間療法です。「口で毒を吸い出す」「患部にアンモニア(尿など)をかける」「油に漬けたムカデ油を塗る」といった行為は、医学的根拠が皆無であるばかりか極めて有害です。口内粘膜の微小な傷から毒が侵入して喉頭浮腫を引き起こすリスクや、傷口からの黄色ブドウ球菌感染を誘発する恐れがあるため、科学的に確立された「温熱流水洗浄と石鹸洗い」以外の俗説はすべて排除しなければなりません。