インターネット上の言説やSNSのレトロ建築ブームにおいて、赤線・青線に関するいくつかの致命的な歴史誤認が散見されます。調査報道の観点から、代表的な3つの誤解を是正します。
誤解1:「赤線地帯では売春が法律で公認・合法化されていた」という誤り
ネット上のまとめ記事などで「赤線は合法、青線は違法」と単純化して説明されるケースが多々あります。しかし厳密には、1946年のGHQ指令以降、売春を合法化した国家法規は一度も制定されていません。売春防止法が施行されるまでの間は、「売春そのものを直接処罰する包括的な法律(処罰法)が存在しなかった」という法的な空白期間に過ぎませんでした。警察が特殊飲食店という看板を隠れ蓑にして「個人の自由意志による男女の交情」として見て見ぬふりをした、いわば「行政指導レベルの黙認」であり、法的に権利として保障された営業ではありませんでした。
誤解2:「公図上の赤線・青線(法定外公共物)」との混同
検索エンジンで「赤線 青線」と調べた際、不動産用語や自治体の土木課が公開する情報が上位にヒットすることがあります。これはまったく別の概念です。公図(旧和紙公図など)において、道路法が適用されない里道(農道・あぜ道)を赤色で着色したものを「赤線」、河川法が適用されない水路・農業用水を青色で着色したものを「青線」と呼び、これらは現在「法定外公共物」として市区町村が管理しています。風俗史の特飲街・私娼街と、不動産登記上の赤線・青線は、色分けの偶然の一致に過ぎず、歴史的ルーツは完全に異なります。
誤解3:「青線は赤線よりも粗野で安価な店舗ばかりだった」という偏見
青線は路地裏の粗末なバラックだけを指したわけではありません。赤線の指定を受けられなかった新興の歓楽街、例えば新宿のゴールデン街周辺や池袋の闇市跡、あるいは米軍基地周辺のバー街など、活況を呈していた盛り場の一部も青線に含まれていました。中には赤線の老舗店よりも内装に金をかけ、政治家や進駐軍将校を相手にした高級クラブまがいの青線サロンも存在し、警察の汚職や賄賂問題と表裏一体の関係にあったのが現実です。