2008年頃、「貴族のお漫才」で大ブレイクを果たした髭男爵。当時のステージで掲げていたワイングラスの中身は、実際のワインではなくファンタグレープやクランベリージュースでした。ブームが落ち着き、いわゆる「一発屋」として仕事が激減していくなか、ひぐち君の人生を決定づける転機が訪れます。
相方の山田ルイ53世が著書『一発屋芸人列伝』(新潮社)や当時の回顧録で明かしている通り、コンビでワイン関連のPRイベントにキャスティングされた際、本物のワインについて記者から専門的な質問を投げかけられたひぐち君は、何一つまともに答えられず会場の失笑を買ってしまいました。「ワインのネタで世に出してもらったのに、自分はワインについて何も知らない」という強烈な羞恥心と危機感が、彼の知的好奇心に火をつけたのです。
そこからの行動は極めてストイックでした。多忙な芸人活動の合間を縫ってワインスクールへ通い詰め、分厚い教本を暗記し、毎晩のようにブラインドテイスティングを繰り返す日々を送ります。その結果、2015年に一般愛好家向け資格の最高峰である一般社団法人日本ソムリエ協会認定「ワインエキスパート」にストレート合格を果たしました。
彼の挑戦は資格取得にとどまりませんでした。さらに上位の難関である「ワインエキスパート・エクセレンス(旧シニアワインエキスパート)」への挑戦や、世界基準のワイン教育機関が提供する国際資格「WSET Level 3(ワイン・アンド・スピリッツ・エデュケーション・トラスト)」にも合格。2020年には日本ソムリエ協会より、ワイン文化の普及に貢献した功績が認められ「ソムリエ・ドヌール(名誉ソムリエ)」の称号を授与されました。
2026年現在のひぐち君は、単なるお笑いタレントの枠を完全に超えています。北海道余市町の「余市町ワイン大使」やサッポロビール「グランポレールアンバサダー」を務める傍ら、年間数十軒以上の全国各地のワイナリーへ自ら足を運んで取材。ブドウの収穫や醸造の手伝いまで行い、生産者の生の声を届ける「日本ワインの伝道師」として確固たるポジションを確立しています。