収録現場の空気は、まさに異様だったという。関係者への取材によると、セイレーン役のキャストがブースに入った瞬間、スタジオ全体の温度がすっと下がったような錯覚すら漂っていた。要求されたのは、メロディとしての歌唱と、感情が崩壊していく台詞の境目をなくすという難工事だ。
音響監督はブース越しに「もっと無機質に、だが同時に世界で一番愛おしい相手に呼びかけるように」という相反する指示を矢継ぎ早に出した。キャストは息を整える間もなく、数分間に及ぶ長尺のセリフを一気取りで敢行。テイクが重なるごとに声の熱量が跳ね上がり、OKが出た瞬間にはスタッフ陣から溜め息と、それに続く割れんばかりの拍手が巻き起こった。あのアフレコ現場の緊迫感こそが、作中の「怪物性」を生み出した原動力にほかならない。