厨房で黙々と鍋を振る店主の佐藤氏(74歳)は、多くを語らない。毎朝5時に仕込みを始め、深夜まで店に立つ生活を半世紀近く続けてきた。「体が動くうちはやるだけだよ」と、額の汗を拭いながらぶっきらぼうに笑う。その背中には、職人としての矜持と、長年店を支えてくれた常連客への義理が滲む。
だが、避けて通れないのが後継者問題だ。個人経営の町中華が全国的に激減している最大の理由は、過酷な労働環境と後継者不足にある。この店も例外ではない。佐藤氏の子供たちはすでに別の職に就いており、店を継ぐ予定はないという。「俺の代で終わり」という言葉の裏にある寂しさは、この街の歴史の一部が消え去ることを意味している。