「水道水をそのまま水槽に入れたら、メダカが激しく暴れたあとに底に沈んで動かなくなった」——これはアクアリウム初心者が最も直面しやすい悲劇の一つです。メダカが水道水で死んでしまう直接的な理由は、消毒のために水道水に添加されている残留塩素(次亜塩素酸および次亜塩素酸イオン)の強い酸化作用にあります。
日本の水道法により、蛇口地点での残留塩素濃度は0.1mg/L以上を保持することが義務付けられており、都市部や夏季の配水地域では0.4〜1.0mg/L近くまで達することもあります。人間にとっては病原菌を殺菌してくれる安全の砦ですが、体重わずか0.5g前後のメダカにとって、この濃度は致死レベルに達します。
メダカが塩素を含んだ水に入ると、呼吸器官であるエラの薄い粘膜組織が強力な酸化力によって瞬時に傷つけられます。エラの上皮細胞が破壊されると、水中の酸素を血液中に取り込むガス交換ができなくなり、外見上は水中にいながら実質的な窒息死を起こしてしまうのです。さらに、水道水中の塩素は、水槽内の有害物質(アンモニア)を分解してくれるろ過バクテリア(硝化菌)までも死滅させ、水質浄化サイクルそのものを崩壊させます。