松本市大手4丁目、女鳥羽川の北側に広がる閑静な一角。ここに構える「珈琲茶房かめのや」を語る上で欠かせないのが、前身である翁堂(おきなどう)茶房の歴史と経緯です。翁堂は明治44年(1911年)創業の和菓子舗であり、その喫茶部門として1970年代から長年愛されてきたのがこの場所でした。しかし、建物の老朽化や後継者問題などが重なり、惜しまれつつもその幕を閉じることになります。
この文化的景観の喪失を危惧し、立ち上がったのが現在の店主をはじめとする地元有志でした。「街の歴史が染み込んだ空間を後世に残したい」という強い意志のもと、内装の古き良きエッセンスをそのまま保存する形でプロジェクトが始動。亀の甲羅のような六角形の天窓や、重厚な木製カウンター、飴色に輝く革張りソファなど、昭和モダニズムが息づく意匠を徹底して修繕・活用し、2016年に「珈琲茶房かめのや」として再出発を果たしました。
店内中央に配された中庭の坪庭からは、四季折々の光が差し込みます。新旧の世代が交差し、かつての常連客から若い観光客までが自然と同じ空間で寛げる背景には、単なる建物の保存ではなく、「松本の喫茶文化そのものを継承した」という敬意と誇りが脈打っています。