「日本にスラム街はどこにあるのか」という疑問に対し、都市社会学や行政の観点から正確に答えるならば、「国際基準におけるスラム街は現在の日本には実在しない」というのが客観的な事実です。
国連人間居住計画(UN-Habitat)の定義によれば、スラムとは「安全な水へのアクセスの欠如」「衛生設備の不備」「過密居住」「恒久的な住居構造の欠如」「居住権の不安定(不法占拠)」のうち、1つ以上が該当する過密荒廃地域を指します。南米のファベーラや東南アジアの大規模スラムのように、警察や消防などの公共サービスが一切機能せず、上下水道も引かれていない不法建築群は、現在の日本の主要都市には存在しません。
ネット上で「日本のスラム街」と呼称されている場所の正体は、歴史的に形成された「日雇い労働者の街」、通称「ドヤ街」です。「ドヤ」とは宿(ヤド)を逆さまに読んだ隠語であり、「人の住む場所ではない粗末な宿」と自嘲気味に呼んだことに由来します。これらは旅館業法に基づくドヤ街簡易宿泊所が密集した正規の市街地であり、インフラが完備された行政サービス圏内にあります。
戦後の焼け跡からの復興期や高度経済成長期、港湾作業や建設現場の労働力を即座に供給する拠点として形成された日本貧困地域歴史の背景を無視し、単に外観の古さや路上生活者の存在だけを切り取って「スラム」と呼ぶことは、実態を見誤る原因となります。