近年のオリンピック体操競技は、過去の犠牲を決して無駄にしないための重層的な安全対策の上に成り立っています。器具の進化は目覚ましく、跳馬の反発力向上と広い接触面、床運動のスプリング構造の改良、段違い平行棒のしなりと衝撃吸収性の向上など、選手の身体負荷を極限まで減らす設計が施されています。
さらに注目すべきは「メンタル面における安全意識の劇的な変化」です。2021年の東京五輪で、アメリカの絶対女王シモーネ・バイルス選手が空中感覚を失う「トゥイスティーズ(Twisties)」を発症し、競技を途中棄権した出来事は世界中で大きな支持を集めました。無理をして技を強行すれば命を落としかねない状況下で、選手自身が勇気を持って「棄権」を選択できる土壌が整いつつあります。
難度(Dスコア)と美しさ・完成度(Eスコア)のバランスを見極め、危険な無謀技の横行を防ぐ採点規則の改定も継続的に実施されており、現代の体操界は「選手の生命と健康の保護」を最優先事項として歩みを進めています。