三億円事件のアイコンとして日本中のお茶の間に知れ渡ったのが、白バイ用のヘルメットを被った若者の「モンタージュ写真」です。鋭い目つきのこの顔写真は約500万枚も印刷され、全国の交番や駅、公共施設に掲示されました。しかし、この写真こそが捜査を迷走させた最大の元凶であったことが、後に判明します。
1974年のスクープ報道により、公開されたモンタージュ写真は複数の目撃証言を合成したものではなく、死亡した少年Sが生前に撮影された顔写真をそのまま下敷きにして作成された加工写真であった事実が白日の下に晒されました。目撃者である現金輸送車の行員たちが抱いていた曖昧な犯人像に対し、警察側が「この男ではなかったか」と少年Sの写真を提示し、そこから引き出された証言を逆算してモンタージュを仕上げていたのです。
この結果、全国から寄せられた11万件を超える目撃情報は「モンタージュ写真(=少年Sの顔)に似た人物」ばかりに偏り、真犯人とはまったく無関係な市民への誤認捜査を大量に誘発しました。警察が「少年Sこそ犯人」という強烈な予断を持ったことで、客観的な目撃証言が歪められ、結果として本物の犯人が逃げ延びるための貴重な時間を献上することになりました。