八幡の藪知らずにまつわる最大の謎は、「なぜ立ち入ってはならないのか」という理由そのものが明確に統一されていない点にあります。「入れば必ず祟りがある」「神隠しに遭って行方不明になる」という恐怖の噂が先行し、その根拠として主に以下の説が語り継がれてきました。
第1に、貴人の墳墓(塚)説です。承平天慶の乱で知られる平将門の父・平良将の墓所であるとする説や、将門軍の陣所跡、あるいは討ち死にした将兵の首塚であるという伝承です。朝廷に反旗を翻した怨霊を鎮めるための聖域とされ、荒らせば非業の死を遂げるという祟りへの畏怖が、立ち入りを阻む強力な動機となりました。
第2に、神域・祭祀跡説です。近くに鎮座する下総国総鎮守・葛飾八幡宮の旧鎮座地、あるいは神仏習合時代の放生池(ほうじょうち)の跡地であり、神仏の戒律によって人の侵入が禁じられていたという見方です。神聖不可侵の土地として結界が張られていた名残が、庶民の間に「神隠しの森」として伝播したと考えられています。
第3に、自然地形・毒ガス説です。かつてこの一帯は底なしの沼地や窪地であり、一度足を踏み入れると自力での脱出が困難だったという現実的な地形要因です。さらに、地中から有毒ガスが噴出していたために人が倒れたという説も唱えられていますが、地質学的な決定打には至っていません。