トレーニング愛好者の間で根強く囁かれる「筋肉痛がこなければ筋肉はつかない」という言説。この噂の真偽を問われれば、現代のスポーツバイオメカニクスは「完全な迷信であり、効果ゼロどころか順調に筋適応が進んでいる証拠であるケースが多い」と回答します。
筋力トレーニングによって引き起こされるあの特有の痛みは、学術的には遅発性筋肉痛メカニズム(DOMS: Delayed Onset Muscle Soreness)と呼ばれます。運動直後ではなく数時間から24〜48時間後にピークを迎えるこの現象は、かつて信じられていた「疲労物質である乳酸の蓄積」ではなく、筋線維微細部の微小損傷と、それに伴う細胞外マトリックスの炎症反応、痛覚受容器の感作によって生じることが明らかになっています。
ここで重要なのは、筋トレで筋肉痛がこない効果の有無です。国内外の運動生理学研究チームが発表したメタアナリシス(統合解析データ)においても、筋肥大を決定づける主因は「機械的張力(メカニカルテンション)」であり、「筋線維の微小断裂(筋損傷)」そのものは副産物に過ぎないことが判明しています。筋線維が引きちぎれるような激痛を経験しなくても、筋肉内部の同化シグナル伝達経路(mTORC1など)は十分に活性化され、タンパク質合成は亢進します。
痛みが全くない状態であっても、超回復は筋肉痛なしの環境下で静かに、そして確実に進行しています。筋肥大と筋肉痛の度合いは比例関係にありません。痛みをトレーニングの成否を測る単一のバロメーターにしてしまうことこそが、怪我や挫折を招く最大の落とし穴です。