名前の終端にある「ルイス・イ・ピカソ」に注目したい。スペインの命名規則では、父方の第一姓と母方の第一姓を並べるのが通例である。彼の父親は、画家であり美術教師でもあったホセ・ルイス・イ・ブラスコ。すなわち、本来であれば彼は「パブロ・ルイス」として名声を確立するはずだった。
しかし青年期のパブロは、ありふれた父方の姓「ルイス(Ruiz)」をあっさりと捨て、イタリア系にルーツを持つ母マリアの旧姓「ピカソ(Picasso)」のみを署名に選んだ。響きの珍しさ、そして珍重されるダブルの「S」の文字が持つ視覚的な強烈さに、若き天才は直感的に惹きつけられたという。父の画業を乗り越え、自己を一個の独立した芸術アイコンへと昇華させるための、鋭利な自己プロデュースがそこにあった。