マゴチを扱う上で誰もが一度は抱く疑問が、「この鋭いトゲにはオニオコゼのような毒があるのか」という点です。結論から言うと、マゴチのトゲに固有の毒腺(毒液を分泌する器官)は存在しません。しかし、釣り場や厨房で「刺されて手が何日もパンパンに腫れ上がった」という証言が後を絶たないのには、明確な医学的・生物学的根拠があります。
危険の正体は、鰓蓋(えらぶた)側面の鋭利な前鰓蓋骨棘(ぜんさいがいこつきょく)および背ビレの棘条です。海底の砂泥に潜んで生活するコチの体表やトゲ周辺には、ビブリオ菌をはじめとする多種多様な海洋細菌が付着しています。トゲが皮膚深くに突き刺さると、ナイフで裂かれたような物理的裂傷に加えて細菌が皮下組織へ直接注入され、蜂窩織炎(ほうかしきえん)や激しい化膿性炎症を引き起こすのです。
刺された際の痛みは数時間から数日続き、患部が発赤して握力を失うほど腫れ上がるケースも珍しくありません。刺身作りに取り掛かる前に、調理用の頑丈なキッチンバサミを取り出し、左右のエラのトゲと背ビレの硬いトゲを根元から完全に切り落とす作業が、怪我を防ぐ絶対の防衛ラインとなります。