梨園のトップランナーとして絶大な人気と発言力を誇っていた彼が、なぜこれほどまでに極端な行動へ走ったのか。その引き金となったのは、事件当日の朝に発売された女性週刊誌によるパワハラ・セクハラ疑惑の報道でした。
報道では、猿之助が主催する公演や舞台の現場において、共演者やスタッフに対する過剰なスキンシップや優越的地位を利用した不適切な行為があったと告発されていました。長年にわたり築き上げてきた名声が一瞬にして失墜し、澤瀉屋の座頭としての責任を一身に背負っていた猿之助にとって、その精神的打撃は計り知れないものでした。
裁判で明かされた証言によると、記事の発売前夜、絶望した猿之助は両親に事態を打ち明けたとされています。その際、両親から「次の世へ行こう」という趣旨の提案がなされ、いわゆる家族会議の末に一家で自死する合意が形成されたと語られています。突如突きつけられた社会的制裁の恐怖と名門の重圧が、正常な判断力を奪い去った末の悲劇でした。