福岡県の麺文化といえば、箸で持ち上げるとふわりと切れるほどのやわらかい麺が伝統的なスタンダードです。そんな土地柄において、噛み締めた瞬間に跳ね返るような強靭な弾力と、喉越しを兼ね備えた本流の讃岐うどんを掲げることは、ある種の冒険でもありました。この高い壁を突き破った原動力が、うどん職人さぬき麺之介の店主の経歴と、その類まれな情熱にあります。
店主は当初から料理一筋だったわけではなく、別業界から職人の世界へと飛び込んだ異色のバックボーンを持っています。脱サラ後、本場・香川の名店で讃岐うどんの奥深さに魅了され、粉と水、塩の配合比率が生み出す科学的・職人技的構造を徹底的に研究。一切の添加物に頼らず、小麦本来の風味を引き出す技法を身につけました。当時の心境について、古くからの常連客は「『北九州に本当の讃岐の旨さを根付かせたい』という店主の熱量は、時に狂気すら感じるほど純粋だった」と証言しています。
「やわ麺こそがうどん」という保守的な地域風土に対し、店主は小倉の地で敢えてエッジの立った剛麺を提供し続けました。単に硬いだけではない、中心に向かって押し返すような粘り気(コシ)と、伊吹島産の厳選いりこを使った澄んだ黄金出汁。この本物の完成度が口コミで広がり、やがて北九州の讃岐うどん名店としての確固たる地位を築き上げるに至ったのです。