一般的に、体重100キロを超える高度肥満に達すると、インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が生じ、2型糖尿病を発症する確率が跳ね上がります。ところが、現役幕内力士の血液検査データや各種研究報告を精査すると、空腹時血糖値やヘモグロビンA1c(HbA1c)が正常範囲内に収まっている力士が多数を占めます。
この特異な現象を支える決定的な要因が、早朝から数時間にわたって行われる過酷な朝稽古です。力士は起伏の激しい四股やすり足、激突を繰り返すぶつかり稽古によって、体内の筋グリコーゲンを徹底的に枯渇させます。筋肉が激しく収縮する際、細胞内ではインスリンの助けを借りずに糖を細胞内へ直接取り込む輸送体「GLUT4(グルコース輸送体4)」が活性化します。
稽古によって極限まで研ぎ澄まされた骨格筋は、食事から得られた大量のブドウ糖を瞬時に吸収する巨大なスポンジの役割を果たします。その結果、膵臓から過剰なインスリンを分泌し続けなくても血糖値が速やかに降下し、高血糖状態が血管を傷つけるのを未然に防いでいるのです。力士の巨体は単なる脂肪の塊ではなく、莫大な代謝能力を誇る高密度な筋肉組織に裏打ちされています。