ゴブリンという怪物の起源を探ると、古代から中世にかけてのヨーロッパ民間伝承に行き当たります。語源の有力なルーツとされるのは、古代ギリシャ語で悪意ある悪霊を指した「コバロス(kobalos)」です。これが中世ラテン語の「ゴベリヌス(Gobelinus)」、古フランス語の「ゴブラン(gobelin)」へと転化し、14世紀頃の英語圏に定着しました。
伝承におけるゴブリンの原像は、画一的な魔物ではありませんでした。イギリスやフランスの民話に登場する彼らは、洞窟や地下鉱山、あるいは民家の屋根裏に潜む「小鬼・妖精(フェアリー)」の一種でした。ドイツ伝承の鉱山妖精「コボルト(Kobold)」と同系統の存在であり、鉱夫の作業を邪魔して落盤を引き起こしたり、夜間に家畜を驚かせたりする「悪戯好きで気まぐれな精霊」として語られていたのです。
興味深いのは、語頭に親愛表現の付いた「ホブゴブリン(Hobgoblin)」との関係性です。伝承における「ホブ」は、家事を手伝ってくれる親切な家つき妖精(ロビン・グッドフェローなど)を指す愛称でした。つまり、本来は「ホブゴブリン=人間に友好的な妖精」「ゴブリン=悪意ある小鬼」という対比構造だったのです。この関係性が後のファンタジー作品で「ゴブリンの上位種・大型凶悪種」へと180度改変された事実は、ポップカルチャーにおける最大の逆転劇の一つといえます。