十字軍の講和を終えて帰国の途についたリチャード1世を待っていたのは、過酷な罠でした。敵対していたオーストリア公レオポルト5世の領内を身代金を隠して通過しようとしたものの、変装を見破られて捕縛。さらに神聖ローマ皇帝ハインリヒ6世の手に引き渡され、帝国領内の城に幽閉されてしまったのです。
皇帝が要求した解放条件は、15万マルクという途方もない身代金でした。これは当時のイングランド王国の歳入数年分に匹敵する国家予算規模の巨額です。この危機に立ち上がったのが、70歳を超えていた母アリエノール・ダキテーヌでした。教皇に救済を訴える書簡を送りつつ、イングランド領民に重税を課し、教会からは金銀の財宝や什器を供出させて執念で資金をかき集めました。
その一方で、留守を預かっていた弟のジョン王(当時は王子)は、兄が二度と帰還しないことを願い、フランス王フィリップ2世と結託して王位の強奪を画策。神聖ローマ皇帝に「兄を幽閉し続けてくれれば金を支払う」とまで密約を持ちかける冷酷さを見せました。1194年、身代金の支払いが完了してリチャード1世が奇跡の帰還を果たした際、フィリップ2世がジョンに「悪魔は解き放たれた。身の振り方を考えよ」と警告文を送った逸話はあまりにも有名です。