多くの日本人が直面する「ドイツパンが酸っぱい理由」は、決して発酵の失敗や品質劣化ではありません。その鍵を握るのが、伝統的な製法で欠かせないサワー種(Sauerteig)の存在です。
ライ麦粉には、デンプンを分解する酵素であるアミラーゼが豊富に含まれています。小麦のようにイースト菌だけで発酵させようとすると、アミラーゼが活発に働きすぎて生地のデンプンを糖化・液状化させてしまい、焼いても中心がドロドロのまま固まらない状態(糊化不良)に陥ってしまいます。この弱点を克服するために編み出されたのがサワー種でした。
サワー種は、ライ麦粉と水に含まれる微生物を自然共生培養させた発酵種です。種の中に生息する無数の乳酸菌や酢酸菌が酸を生成し、生地のpHを4.0〜4.5付近の強酸性まで一気に引き下げます。酸性環境下ではアミラーゼの働きが抑制されるため、ライ麦のデンプンが保たれ、しっかりと生地が焼き固まる骨格が作られるのです。
つまり、あのツンと鼻腔をくすぐる独特の酸味は、ライ麦パンを成立させるための「必然の副産物」であり、豊かな風味の証です。さらに、乳酸と酢酸の抗菌作用によってカビの繁殖が抑えられ、数日から1週間以上も風味を保ち続ける優れた保存性をもたらしています。