多角的な活動を展開する一方で、彼が最も精力を注ぎ続けているのは、やはり高座での口演である。特に古典落語の継承に対する情熱は並々ならぬものがある。先人たちが磨き上げた噺の骨組みを守りつつ、現代の観客にも伝わる言葉遣いやニュアンスを繊細に織り込んでいく手法は、熟練の職人技と言える。
中でも聴衆の心を激しく揺さぶるのが、親子の情愛や江戸の市井の人々の哀歓を描いた人情噺だ。笑いの中にふと漂う切なさ、人間の弱さを丸ごと包み込む包容力。高座から発せられる一言一言が、客席に深い余韻を残す。笑わせるだけでなく、観客の心に温かな灯をともすような芸風こそ、九代目正蔵が到達した至高の境地である。