ネット上や教育現場では「日本の伝統的なわらべうた」と誤解される場面が散見されますが、由来と発祥の歴史を検証すると、その原型は19世紀以前から英国をはじめとする英語圏で広く遊ばれてきた伝統ゲーム「What's the time, Mr. Wolf?(ミスター・ウルフ、今何時?)」にあります。
英語圏の原典におけるルールも日本とほぼ同一です。子どもたちは「What's the time, Mr. Wolf?」と合唱し、狼役が「It's four o'clock!」と答えれば4歩進みます。そして狼が「Dinner time!(夕飯の時間だ!)」と叫んだ瞬間に追いかけっこがスタートします。日本に導入される過程で、「夕飯の時間」という直接的な捕食表現が、怪談や昔話で不吉・異界の時間帯を象徴する「夜中の12時」へと巧みに翻案された形跡が見受けられます。
なぜ「狼」が追跡者として選ばれているのかという点も、文化史的に興味深い背景を持ちます。ヨーロッパの民話『赤ずきん』や『三匹の子豚』『狼と七匹の子山羊』に見られるように、狼は古くから「いつ襲ってくるかわからない予測不能な脅威」の象徴でした。西欧の児童文化研究者の論考や教育史の記録によれば、子どもたちは遊びを通じて「捕食者への警戒」と「集団での退避行動」を疑似体験し、危機回避の身体感覚を身につけてきたと分析されています。昭和中期以降、日本の保育園幼稚園レクリエーションとして翻訳・輸入され、親しみやすい「おおかみさん」の呼称とともに全国の幼児教育現場へと定着していきました。