江戸の言葉遊びの最高峰である古典落語においても、地口は極めて重要な屋台骨を担っています。落語の結末(サゲ)にはいくつかの類型がありますが、その中でも定番の一つとされているのが「地口落ち(にわか落ち)」です。
地口落ちは、噺のクライマックスにおいて、有名な諺や芝居の台詞の音をもじった言葉を主人公が放ち、一瞬の静寂ののちに客席をドッと沸かせて幕を閉じる手法です。落語家の証言や演芸評論家の記録によれば、地口落ちは客側に元句の教養がなければ成立しないため、演者の「間(ま)」と観客の「呼吸」が最もシビアに試される技術とされています。
例えば、滑稽噺の名作『蛙茶番(かわずちゃばん)』では、芝居の真似事から始まるドタバタ劇の最後に鮮やかな地口で幕を閉じます。また、商人の吝嗇(けち)ぶりを描いた『片棒』などでも、祭りの囃子や言葉の響きを活かした見事な落とし前がつけられます。前座から真打に至るまで、落語家が言葉の音節一つひとつのアクセントをミリ単位で調整するのは、地口落ちが決まった瞬間のえも言われぬ快感を観客と共有するためです。