刑事事件のニュースなどで耳にする「内偵」ですが、法律上の定義や通常の捜査との違いは一般にあまり知られていません。内偵捜査の本質は、「対象者(被疑者・ターゲット)に捜査の存在を隠匿したまま、犯罪の証拠を固める極秘の事前調査」にあります。
刑事手続きにおける内偵捜査と本捜査の違いは、大きく「事件の公然性」と「行使される捜査権限」に分けられます。内偵捜査は原則として刑訴法上の「任意捜査」の枠組みで行われ、家宅捜索や取調べのように相手へ公に接触することはありません。警察庁の内部捜査規範に基づき、事件化(本捜査)に耐えうる証拠が揃うまで、徹底的に水面下で進められます。
では、なぜ警察は手間と時間をかけて内偵調査を行うのでしょうか。内偵調査が行われる理由と真相には、主に以下の3つの戦略的意図が存在します。
第一に「証拠隠滅の完全な阻止」です。特に横領や詐欺などの経済犯罪、薬物事犯、サイバー犯罪では、捜査の動きを察知された瞬間に帳簿データの消去やスマートフォンの初期化、薬物の廃棄が行われる危険が極めて高くなります。第二に「逃亡の未然防止」です。重大事件の被疑者が警戒して身を隠せば、身柄確保に膨大な警察リソースを浪費することになります。そして第三に「裁判所の令状請求に必要な疎明資料の確保」です。裁判官から逮捕状や捜索差押許可状の発付を受けるには、「犯罪の嫌疑」と「逮捕・捜索の必要性」を裏付ける確実な客観証拠が必須となります。