「ナイアシンアミドとビタミンCの併用はタブー」と叫ばれるようになった発端は、1963年に発表された初期の生化学論文にまで遡ります。当時の研究者が試験管内で行った実験条件は、現代のスキンケア環境とはかけ離れた極限状態でした。具体的には、120℃以上の高温下かつpH2前後の極端な強酸性環境でアスコルビン酸とナイアシンアミドを長時間加熱・混合したのです。
この過酷な条件下において、ナイアシンアミドが「ニコチン酸」へと加水分解され、同時に両者が結合して黄色い複合体(錯体)を形成しました。ニコチン酸は末梢血管を急激に拡張させる性質を持つため、皮膚に塗布すると強い紅斑や熱感を伴う「ナイアシンフラッシュ」を誘発します。さらに「黄色く変色したことで両方の美肌効果が相殺された」という表面的な観察結果だけが独り歩きし、半世紀以上にわたって「危険な組み合わせ」として誤認され続けました。
皮膚科専門医および化粧品処方開発者への取材取材によると、人間の肌表面温度(約32〜34℃)かつ日常的な室温において、ナイアシンアミドがニコチン酸へと瞬時に加水分解することは物理化学的に起こり得ません。加水分解が目に見える形で進行するには、pH2以下の過酷な環境で数週間から数ヶ月にわたり放置する必要があります。また、一時的に形成される水素結合錯体も、皮膚表面の水分や皮脂になじむ過程で速やかに解離し、それぞれの浸透ルートを辿ることが最新の質量分析技術で確認されています。