ダムに関する報道で最も読者を惑わせるのが、「貯水率50%」という数字の独り歩きです。一般の感覚では「半分しか水がない=深刻な渇水」と思われがちですが、日本の多目的ダムには「季節ごとの容量シフト」という厳格な工学的ルールが存在します。
毎年6月11日から10月31日までの期間は、梅雨末期の集中豪雨や台風の直撃が相次ぐ「出水期」に指定されています。この時期にダムを満水にしておくと、上流から大量の濁流が一気に押し寄せた際に雨水を受け止めきれず、下流へそのまま流す「緊急放流」を招いて大水害を引き起こしかねません。
そのため、ダム管理者は梅雨入り前にあらかじめ水位を「洪水貯留準備水位(標高195.50m)」まで意図的に下げ、ダム湖の上半分をごっそり空けておきます。つまり、夏の「貯水率50%」とは、「半分乾いている」のではなく、「巨大な洪水を丸ごと飲み込むための巨大な空きスペースを意図的に作っている」状態を意味します。
この治水容量を確保している期間に、分母を「冬場の満水容量(常時満水位)」にして計算した数値をメディアがそのまま報じることで、「渇水危機」という誤認が拡散してしまうのです。ダムの安全度を測る際は、季節別の制限水位に対してどれだけの水が確保されているかを見極める専門的な視座が欠かせません。