田んぼアート最大の謎は、「なぜ地上では引き伸ばされて見える絵が、展望台からは狂いなく美しく見えるのか」という点にあります。その核心にあるのが、だまし絵の手法としても知られる「アナモルフォーシス(歪像画法・遠近法補正)」の技術です。
鑑賞者が立つ展望デッキの高さ(アイポイントの標高)、田んぼまでの水平距離、見下ろす角度(俯角)を厳密に測定します。視点から遠い奥側の田んぼは、手前側に比べて極端に圧縮されて見えるため、元絵を奥に向かって縦方向に2倍から4倍近く引き伸ばした補正設計図を作成しなければなりません。現代では専用のCADソフトウェアや3Dモデリングツールを用い、展望台の特定座標から見たときにベストな縦横比になるよう逆算して下絵データを生成します。
完成した設計図を実際の泥地へ落とし込む作業には、土木現場で使用されるトータルステーション(光波測量機)や高精度GPS測量機が用いられます。水田内に数メートル間隔で基準となる「測量杭」を打ち込み、設計図の輪郭線に沿って色付きのロープやスズランテープを張り巡らせていきます。数千本に及ぶ杭とロープによって水田が巨大な塗り絵の枠線のようになり、初めて田植えができる状態が完成するのです。