かつて昭和から平成初期の中古車市場では、計器盤を外して細い針金や電動ドリルで物理的に数字ドラムを巻き戻す「メーター戻し」と呼ばれる手口が横行した。一時は業界全体の社会問題にまで発展したが、メーターのデジタル化が進んだことで不正は完全に撲滅されたのだろうか。
現場の流通データを追跡すると、驚くべき実態が浮かび上がる。現代のメーター改ざんは、ドリルを使った力仕事から、専用の不正ロム書き換え機器やOBD2(車載式故障診断装置)ポートを悪用した「デジタルハッキング」へと変貌を遂げているのだ。海外製のリプログラミングツールを不正輸入し、クラスター基板のマイクロコントローラを直接書き換える業者が地下組織的に暗躍した事例が、警察や業界団体の捜査で判明している。
この不正手口に対抗すべく機能しているのが、一般社団法人自動車公正取引協議会(公取協)や日本自動車査定協会(JAAI)、中古車オークション各社が連携して運用する走行管理システム照会のネットワークだ。全国のオートオークション会場に出品された車両の「車台番号」と「出品時走行距離」はすべて中央サーバーに瞬時に蓄積される。仮に過去の出品歴で「12万km」と記録されていた車両が、数ヶ月後に「4万km」で流通市場に現れた場合、システムが即座に不正を検知し「メーター改ざん車(巻き戻し車)」として取引から排除される仕組みだ。
しかし、この強固な監視網にも死角はある。オートオークションを一度も経由せず、個人間売買プラットフォームやフリマアプリ、悪質なブローカーの手渡しだけで取引されるケースだ。デジタルメーターだからといって100%安全と過信するのは、現代の中古車購入において最大の落とし穴となり得る。