免疫学の歴史において、制御性T細胞の発見は劇的なパラダイムシフトでした。1970年代から1980年代にかけて「サプレッサーT細胞」という概念が提唱されたものの、当時は特異的な細胞表面マーカーを特定できず、一時はオカルト的な仮説として学会から完全に葬り去られかけた暗黒期が存在します。
この逆風を切り拓いたのが、大阪大学の坂口志文特命教授です。坂口博士は1995年、細胞表面に「CD25」という分子を高発現しているT細胞群(CD4+CD25+)を除去すると、マウスが全身性の自己免疫疾患を自然発症することを発見。ついで2003年には、その機能の本質が前述のFoxp3遺伝子にあることを突き止め、制御性T細胞の実在を不動の事実として世界に知らしめました。
「誰も信じない時代であっても、目の前で起きている生物学的現象の再現性に嘘はないと確信していた」という当時の回顧録が示す通り、この発見は免疫学の教科書を根底から書き換えました。ノーベル生理学・医学賞の有力候補として毎年その名が筆頭に挙げられ続ける背景には、単なる学術的発見にとどまらず、人類が直面する二大難病──「がん」と「自己免疫疾患」双方の治療体系を根本から再構築した圧倒的な波及効果があります。