由利本荘市のラーメン文化を語る上で欠かせないのが、「親鶏(おやどり)」への強いこだわりと、早朝から街が動き出す「朝ラー」の熱気です。
一般的なラーメン店では柔らかい若鶏(ブロイラー)のチャーシューやガラ出汁が用いられますが、由利本荘では古くから卵を産み終えた成鶏(親鶏・廃鶏)を珍重してきました。親鶏の肉は筋繊維が太く、非常に硬い噛みごたえがあります。しかし、じっくり噛み締めるたびに溢れ出す濃厚なアミノ酸の旨味は、若鶏では決して再現できません。「清吉そばや」に代表されるこの味は、昭和の農林水産業や木材産業に従事した人々が、塩分と深い滋味を求めて愛した生活史そのものです。
現場取材で見えてくるのは、朝6時の開店と同時に作業着姿の常連客や通勤前の会社員が雪崩れ込む独特の光景です。券売機ではなく帳場で「中華、肉多めで」と手際よく注文し、滞在時間わずか10分足らずで平らげて仕事場へと向かう。このスピーディーな食のサイクルこそが、由利本荘の活力の源となっています。
一方で「麺響 松韻」のような現代的職人店にも、この朝ラー習慣は自然に接続されました。早朝の澄んだ空気の中で、削り節や煮干しの芳香が立ち込める店内。朝7時の開店前に並び、雑味のない無化調スープを朝一番の胃袋に流し込む体験は、食通たちにとって至福のルーティンとして定着しています。