二千円札は実用面での苦戦が取り沙汰されがちですが、紙幣のデザイン性・芸術性という観点からは、日本の歴代紙幣の中でも傑出した完成度を誇っています。
表面には、沖縄県那覇市の首里城歓会門の手前に位置する「守礼門」が優美な色彩で描かれています。「守禮之邦(礼節を重んじる国)」の扁額を掲げた守礼門は、琉球王国の平和と外交の精神を体現する建築物であり、日本の紙幣表面に首都圏・本州以外の歴史的建造物が単独でメイン図案となった極めて珍しい例です。
裏面には、日本の古典文学の最高峰である『源氏物語絵巻』(国宝・徳川美術館所蔵)第38帖「鈴虫」の詞書と絵図が大胆にレイアウトされています。光源氏と冷泉院が対面し、鈴虫の音色を聴きながら宴を催す名場面であり、文字と絵画が見事に融合した平安王朝の雅が表現されています。さらに右下には、現存する最古の肖像とされる「紫式部日記絵巻」から切り取られた紫式部の肖像画が配されています。
2026年に刷新された新紙幣(一万円=渋沢栄一、五千円=津田梅子、千円=北里柴三郎)は「E券」に属しますが、二千円札は「D二千円券」として発行されたまま据え置かれました。その理由は、D券時代に既に高度な偽造防止技術(深凹版印刷、潜像模様、光学的変化インクなど)が十全に盛り込まれていたこと、そして流通量が限定的であるため偽造リスクが極めて低く、莫大な改修費用を投じて図案変更を行う合理的理由がなかったためです。